戯れの詞と遊ぶ




  『戯れの詞と遊ぶ』

 「愛していると、言ったらどうする? お前は」
 言われた相手の言葉を失った様子など気にもせず、軽く笑んで言葉を続ける。
「笑うか、泣くか、怒るか、…それとも」
 壁に縫い止めるように顔の左右に手をおいて距離を縮める。何も言わずに視線だけを合わせてくる、その子供の頃とは違った赤い瞳に、瞼に、ピオニーはゆっくり唇を寄せた。
「食えないお前の事だ。言葉で、巧くかわすか」
 羽根のように軟らかく瞼、頬に触れるだけの口付けを、徐々に下らせる。されるがまま触れる事を許していた人物は、互いの唇が触れそうになりやっと動いた。
 そっと指先で口付けを遮る。
「何だ、無粋をするな」
 そうは言いながらも、その手を恭しく手に取り甲に挨拶のようなキスを落とす。楽しそうに。
「…笑いも、泣きも怒りもしませんが、いい加減呆れますよ。陛下」
 言葉通りの呆れを含んだ声音でやれやれと目を閉じる。けれどそれはやはりジェイドの得意のスタイルで、昔から知る者としてはおとなしく素直に聞けない。
「照れるな、ジェイド」
 だけれどそういう態度も愛しいと、言わんばかりの優しい指が白い肌を滑る。
「………」
 わざとらしい深い溜息を聞かせ、首筋を撫ぜる指先を剥がす。潜るようにジェイドはピオニーの囲いからするりと抜け出る。ネコのような身のこなしだとピオニーは思う。
「こう見えても、結構忙しいんですよ」
 だからお遊びに付き合えないんですと辛辣に笑顔で告げて、距離を取る。差し延ばされる手が早々に奪われたメガネを返す催促だと、分かっていながらピオニーはそうか、と軽く頷き返そうとはしない。
 ベッドに腰を下ろし、奪ったメガネをかけてみる。子供のような悪戯にジェイドは眉を寄せる。
「陛下、いい加減に…」
 止して下さいと、続ける言葉は呑み込まれた。
 ガラス越しの、けれど強い視線にジェイドは気圧される。心を見透かす瞳だ。ちりりと、焦がされるようで居た堪れない。逃げ出したくなる。こういう姿勢を見せる彼が放つ言葉は、得てしてジェイドの核心に触れる。
「お前が暫く国から離れた後、なかなか誘いに応じないのは俺から離れている時間に、要らん考えをしているのだろうと、最近俺は思うんだが」
「………」
「例えば、『誤った行いだ』とな」
 ガラス越しに暫し視線を合わせ、先に逸らしたのは呆れた様に肩を竦ませるジェイドだ。
「考え過ぎです」
 それを聞き、ピオニーは薄っすら笑みを刷く。そうか、それなら…と言いながらメガネを外す。普段メガネをかけない人間なのに、メガネを外す仕草が様になっていると何となくジェイドは癪に障る。
「飢えている俺に、お前を食わせてくれてもいいだろう」
 言われた台詞にふっとジェイドの張った気を緩める。
「…全く、本当に貴方は悪食ですね」
「当った事はないな」
 ベッドに座り、自分から来させようとするピオニーの意図を酌んで、ジェイドは数歩の距離を進む。
 手の届く範囲で腕を伸ばし、ジェイドの腕を引き寄せ腰を抱く。口腔内を思う様蹂躙された後、喘ぐ息で性急ですねと言うと、飢えていると言ったろうと笑み含んだ声で囁いた。